妊活になぜ「亜鉛」が大切?

「葉酸はサプリで飲んでいます。鉄分も意識しています。妊娠に大切な栄養って、他にもあるんですか?」

これは、「不妊ルーム」に来られた30代の女性が、カウンセリング中にこぼした言葉です。彼女は真面目に栄養管理に取り組んでおり、SNSや書籍で得た知識を実践していました。でも、なかなか妊娠にはつながらない。どこに原因があるのか分からず、自分を責めてしまう日々だったと言います。

そんなとき、私がお話ししたのが「亜鉛」というミネラルです。意外かもしれませんが、妊活中の女性にとって亜鉛はとても大切な存在です。けれども、葉酸や鉄に比べて情報が少なく、軽視されがちです。しかし、体の中では想像以上に重要な働きをしているのです。

亜鉛が妊娠をサポートする“見えないチカラ”

そもそも亜鉛とは、体内でつくり出すことができない「必須ミネラル」のひとつ。細胞の活動や修復、ホルモンの調整、免疫力の維持など、妊娠に関わるあらゆる機能に関与しています。

とくに注目すべきは、「卵子の質」と「排卵の安定」にも深く関わっているという事実です。

卵子は年齢とともに老化しますが、それを加速させるのが“酸化ストレス”。ここに、抗酸化作用をもつ亜鉛が大切です。細胞のダメージを減らし、卵子の質を守る手助けをしてくれるのです。

また、排卵に必要なホルモンのバランスも、亜鉛の不足によって崩れやすくなります。ホルモンは、わずかな乱れでも妊娠の可否に影響します。だからこそ、見えない栄養素に目を向ける必要があります。

「不妊ルーム」でのアプローチ:血液検査と食生活の棚卸し

「不妊ルーム」では、カウンセリングに加え、必要に応じて亜鉛-銅バランスのチェックを行っています。中でも近年増えているのが、「亜鉛不足」の方です。

亜鉛の重要性に関しては、2018年に「亜鉛欠乏症を伴う不妊症」が保険適用になったことからも明らかでしょう。

冒頭の女性も、血液検査で亜鉛不足が判明しました。彼女は毎日の食事に気をつけていたものの、ストレスが多く、コンビニ食や加工食品の利用が続いていたことが原因かもしれません。

「不妊ルーム」では、まず彼女の食生活の見直しを提案しました。例えば、

  • 週に2回は赤身の肉や牡蠣を取り入れる
  • ナッツや豆類をおやつに選ぶ
  • 加工食品を減らす

そして、ノベルジンを処方しました。

「気をつけているつもりでしたが、ストレスやお酒が亜鉛を減らすって知らなかったです。もっと自分の生活をいたわってあげないとですね」

そう話した彼女の表情には、少しだけ自信が戻っていました。

妊娠初期にも、亜鉛は静かに活躍している

もうひとつ忘れてはいけないのが、妊娠が成立した“その後”にも亜鉛が重要だということです。

胎児の細胞分裂や臓器の形成など、目に見えない部分で亜鉛は大きな役割を果たします。不足すると発育の遅れや先天的な異常のリスクが高まるとも言われています。

それだけに、妊娠が分かってから摂りはじめるのでは遅い場合も。だから私たちは、妊娠を望むすべての女性に、「今」の栄養状態を見直すことを提案しています。

妊活は、体と心の“余白”をつくることから

妊活をしていると、「○○をしたら妊娠できる」「これを食べたらいい」といった情報に振り回されがちです。でも実際には、食事も生活も、誰かの成功パターンをそのまま真似してもうまくいかないことも多いのです。

「不妊ルーム」では、一人ひとりに合ったアプローチを大切にしています。

とくに亜鉛のように、あまり注目されてこなかったけれど、確実に妊娠力に関わる栄養素については、見落とさずサポートしていきます。

「最近、ちょっと疲れがとれにくい」「肌荒れが増えた気がする」
そんな体からの小さなサインが、実は亜鉛不足の表れかもしれません。まずは一度、立ち止まって自分の体の声を聞いてみてください。

未来の赤ちゃんのために、今できる小さな選択を

妊活は、正解のない旅です。けれどその旅路の中で、少しずつ自分を知り、自分をいたわることが、やがて大きな力、豊かな未来になると思います。

「赤ちゃんが来てくれる準備を、ちゃんとしてあげたい」
そう願うあなたの体に、今日から“亜鉛”という小さなサポーターを迎え入れてみませんか?

そして、不安なときは、いつでも「不妊ルーム」にご相談ください。あなたの体と心に寄り添いながら、いっしょに“いま”できることを探していきましょう。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)