妊活の漢方薬を科学する——「不妊ルーム」の現場から見えてきたこと——

妊活の漢方薬を科学する——「不妊ルーム」の現場から見えてきたこと——

「先生、漢方薬って本当に効くんですか?」
これは「不妊ルーム」でときどき受ける質問です。

確かに、漢方薬に対して懐疑的な声もあります。「なんとなく効きそうだけど、科学的じゃないのでは?」という不安を抱える方も少なくありません。

その一方で、「不妊ルーム」では、実に多くの女性が「漢方を取り入れたい」と自ら希望されます。実際、当クリニックで妊娠に至った方の約8割が、漢方薬を服用していました。

では、なぜそれほどまでに漢方薬が求められるのでしょうか?
そして、私は医師として漢方薬にどう向き合っているのか。今日はそのお話をさせてください。

女性たちが「漢方」に期待する理由

不妊治療に取り組む多くの女性は、冷えやむくみ、疲労感、月経不順といった不定愁訴を抱えていることも多いのです。西洋医学の薬だけではカバーしきれない体のゆらぎに、漢方薬がアプローチできる場面は少なくありません。

さらに現代を生きる女性は、仕事や生活のストレスにさらされ、ホルモンバランスが乱れがちです。そんな中、「なるべく自然な形で体を整えたい」という声が非常に多く寄せられるのです。

こうした患者さんの切実な声に応えるために、私はエビデンスと安全性を確認しながら、診療に漢方を取り入れるようになりました。

科学の目で見た漢方の効果

私は西洋医学を学んだ医師ですから、漢方医のように舌や脈で診断はしません。私が見るのは、血液検査の数値や基礎体温表の推移です。

たとえば、黄体機能不全の方に当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)を処方した結果、高温期が安定し、黄体ホルモンの数値が改善する例を数多く見てきました。

これは、漢方薬が“なんとなく効いている”のではなく、科学的指標としても変化が現れているということです。

「科学的じゃないから使わない」でいいのか?

確かに漢方薬は生薬であり、ほとんどが成分が複合的で、作用機序が完全に解明されていない面があります。しかし、西洋医学の中にも、「なぜ効くのか説明できないけれど効く薬」は存在します。

「エビデンスが不十分だから使わない」というのでは、目の前の患者さんの可能性を狭めてしまうでしょう。大切なのは、〝本当に患者さんの役に立つかどうか〟です。

結果がすべて──臨床現場で求められる視点

妊活において、患者さんが本当に望んでいるのは「妊娠すること」です。
私たち医師は、科学的根拠を大切にしながらも、時にそれだけでは届かない領域に踏み込まなければならないと感じています。

「副作用がなく、安全に使えて、結果が出ている」。そんな漢方薬なら、臨床現場で積極的に活用する価値があると私は考えています。実際に、漢方を取り入れて体調が整い、妊娠に至った方は少なくありません。

エビデンスと経験──どちらも必要な時代に

もちろん、私は科学的根拠を軽視するつもりはありません。データに基づいて治療方針を決めています。

ただ、不妊治療という繊細な領域では、患者さん一人ひとりの体質や背景が異なり、マニュアル通りの対応では限界があるのも事実です。

その意味で、個人にあった治療が求められる妊活の医療において、漢方薬は非常に有効な選択肢の一つなのです。

これからも「不妊ルーム」では漢方薬を活用していきます

こうした理由から、これからも「不妊ルーム」では、漢方薬を積極的に活用していく方針です。科学の視点で効果を確認しながら、患者さん一人ひとりに寄り添った医療を提供していきたいと考えています。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)