高齢女性の体外受精には卵巣セラピーが有効

高齢女性の体外受精には卵巣セラピーが有効

体外受精(IVF)は、排卵誘発、採卵、体外受精、胚培養、移植というプロセスを通じて妊娠を目指す高度な医療技術ですが、その成否には卵子の質 が大きく影響します。

特に女性の高齢化に伴う卵巣機能の低下や、卵子の老化は、体外受精の成功率を左右する大きな要因となります。

40歳を過ぎた場合に重視すべきポイント

40歳以上の方が刺激法を選ぶ際に、特に重視すべきは以下の3点です。

  1. 卵子の数を確保できるか
  2. 卵子の質を保てるか
  3. 身体への負担を抑えられるか

若い方であれば「たくさん卵を採る→いい卵を選ぶ」という戦略が有効ですが、40歳を過ぎると「たくさん採っても染色体異常の割合が高い」という現実があります。つまり「数を追いすぎても質が伴わない」可能性が高くなり、過剰な刺激がかえって卵子の質を落とすリスクも出てくるのです。そのため、「数」だけでなく「質」にも配慮した刺激法を選ぶことが大切です。

高刺激法は多くの卵を育てられる一方、40歳以上では卵巣の反応が鈍く、思うような結果が得られないことも多くあります。さらに、ホルモン剤による過剰な刺激が卵子の質を低下させるリスクが指摘されています。

一方、低刺激法は身体への負担が少なく、卵巣の自然な力を引き出し、質の良い卵が得られる可能性が高い方法です。ただし、一度に採れる卵子の数は少なくなるため、複数回の採卵が必要になる可能性があります。

「不妊ルーム」はこう考えます

「不妊ルーム」の経験から、私は女性の年齢が高くなればなるほど、①より②、そして②より③を重視すべきだと考えます。なぜなら、年齢を無視して、高刺激による排卵誘発をおこなった後で相談に来られる女性は、年齢以上にFSHの値が高く、AMHの値が低下しているからです。すなわち、卵巣の老化が年齢以上に進んでいるのです。ですから、年齢が高くなるほど、私は排卵誘発に慎重になるべきだと強く思います。

最近の優秀な体外受精医療機関では、低刺激周期においても、大きな卵胞のみならず、小さな卵胞の中の卵子も採取して、胚盤胞にまで育てる技術を持つところも増え始めています。もはや 低刺激=取れる卵子が少ない という公式は成り立たないのです。

現実的な治療戦略と心構え

40歳以降の体外受精では、「一回の採卵にかける」よりも「何度かチャレンジして良い卵を得る」という現実的な姿勢も大切です。卵子数に固執せず、自分の卵巣機能に合った刺激法を選び、医師と相談しながら柔軟に対応しましょう。また、治療に伴う精神的負担も無視できないため、「1個でも良い卵があれば妊娠できる」という前向きな気持ちを持つことが、体外受精を乗り切るために大切です。

「卵巣セラピー」とは?

こうした 卵子の質 という課題に対して、「不妊ルーム」では、卵巣セラピーという独自のプログラムを提供しています。このセラピーは、単なる血流改善に留まらず、栄養学、内分泌学、漢方医学の知見を取り入れ、卵巣の機能を引き上げ、質のいい卵子が育つ環境にすることを目的としています。

ミネラルバランス調整

具体的には、体内の亜鉛と銅のバランスを整えることが大切です。亜鉛は細胞分裂やホルモン合成に不可欠なミネラルであり、卵巣機能にも密接に関わっています。一方で銅が過剰になると、酸化ストレスを引き起こし、卵巣環境を悪化させるリスクがあります。こまえクリニックでは血液検査をもとに、亜鉛-銅のミネラルバランスを詳細に評価し、必要に応じて亜鉛製剤を服用してもらいます。

DHEA補充による卵胞発育サポート

さらに、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)サプリメントの補充も重要な役割を果たします。DHEAは副腎から分泌されるホルモンで、卵巣内でのエストロゲン産生を助ける材料です。年齢とともにDHEAの分泌は減少しますが、適切にDHEAサプリメントで補うことで卵胞の発育が促され、卵子の質が向上する可能性が示唆されています。

漢方による体質改善アプローチ

加えて、個々の体質に応じた漢方薬の処方もおこないます。漢方は冷え、血流、内分泌バランス、自律神経など、多角的なアプローチによって体全体を整え、卵巣の本来の働きを引き出すことを目指します。特に冷え体質や、「おけつ」という血流の停滞、体質の改善は、卵巣環境の底上げに有効です。

体質改善と医療技術の相乗効果

このように、卵巣セラピーは、ミネラル、ホルモン、漢方の三本柱で、体の内側から卵巣を元気にし、卵子の質を高めることを目指しています。体外受精に臨む際、こうした土台作りを並行して行うことで、より良い卵子を得る可能性が高まり、結果的に妊娠率の向上につながっています。つまり、体外受精という技術的なアプローチと、卵巣セラピーという体質改善的アプローチは、互いを補完し合い、妊娠というゴールに向けた強力なサポートとなるのです。

40歳以降の妊活は、自分の身体と心に寄り添う旅です。 焦らず、しかし着実に、一歩ずつ進んでいきましょう。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)