
子宮内膜症
子宮内膜症と不妊症
不妊症患者さんのうち、30%ほどに子宮内膜症が見られるといわれています。また子宮内膜症患者さんのうち、50%ほどが不妊症であるともいわれています。つまり子宮内膜症というのは、不妊症と非常に関係が深いとされる疾患なのです。
なお、子宮内膜症患者さんの数は増加傾向にあります。増加の理由としては、医療技術が発展したことにより、より明確に子宮内膜症の診断ができるようになったからということも確かにあるでしょう。そのほかの理由として、少産化という時代背景が影響しているとも考えられています。
と言いますのも、子宮内膜症の性質として、生理周期に影響される病気であることがあげられるからです。ひとむかし前の女性というのは、10代のうちに結婚して、多くの子どもを出産するのが当たり前でした。この時代では、いわゆる生殖可能年齢とされる期間のうち、妊娠している(つまり生理がない)時間が長かったため、子宮内膜症が発症する余地が無かったと見ることができるのです。
子宮内膜症とは?
子宮内膜症とはどのような病気なのか、そして不妊症とはどのような関わりがあるのかをご説明したいと思います。
生理が終了すると、女性のからだの中で次の期間へ向けての準備が再び始まります。具体的には子宮の内部で内膜が徐々に厚くなっていくのです。ですが、子宮内膜が子宮の内部ではなく、卵巣・腹膜等の本来増殖すべきところでない異所で増え始めることがあります。現在ではこれが子宮内膜症だと定義されています。
なぜこのような症状が発症するのかというメカニズムは、詳しく分かっていないとされています。異所に発生する子宮内膜も、正常時と同様、生理周期に同調する形で増えることとなります。これが困りものなのです。正しい状態の子宮内膜というのは、卵子が受精することがなければ(妊娠が成立することがなければ)生理の際に子宮の内側から剥がれ、からだの外へと自然に押し出されていきます。ですが卵巣をはじめ異所にできた子宮内膜は外へ出される機会がありませんから、ずっとその場所へと溜まり続けることになります。
しかも厄介なことに、子宮内膜は、その場所にとっていわば侵入者のようなものにあたりますから、周囲の臓器と反応してしまい、癒着がおこることがあります。この現象により、子宮後屈・卵管の通過異常等が引き起こされ、これが子宮内膜症患者さんの腹痛、生理痛や性交痛などの原因となるのです。
さらに子宮内膜症を発症した患者さんの場合、CA‐125 という腫瘍マーカーの値が上昇する傾向にあります。(全ての子宮内膜症の患者さんの値が上昇する訳ではありません)
子宮内膜症を治療するには
ここからは子宮内膜症の一般的な治療について見ていきましょう。仮にその患者さんに生理が来ない状況なのであれば、子宮内膜症の進行はいったんストップする傾向にあります。一説に「子宮内膜症において、最良の治療法は妊娠である」とも言われる理由はこれです。ですがそもそも子宮内膜症の患者さんのうち、多くが妊娠しづらい状況です。
もちろん他にも治療法は存在します。一般によく行われる治療として、偽閉経治療法があります。偽閉経療法とは、薬を使用してエストロジェンの分泌を抑え、いわゆる“閉経時”に近いような状況におくことで、子宮内膜が増えないようにする方法です。
エストロジェンは女性ホルモンと呼ばれ、子宮内膜を増やす以外にも、人間のからだへ様々な効果をもたらすものです。そのため偽閉経療法を行い、突然エストロジェンの分泌を抑える(閉経に近い状態にする)と、肩こり・のぼせ等の更年期障害のような症状が見られることもあります。また長期に渡ってこの治療を行った場合、骨量が減る等の副作用の可能性もありますから、この治療は半年程度以内に留めるのが通常です。
偽閉経治療法で使用する薬には注射薬・点鼻薬があります。注射薬の場合は月1度のみ注射を行うだけで済みます。ただし裏をかえせば、治療を始めてしまうと1ヵ月の間は治療中止が不可能ということでもあります。そして点鼻薬の場合、1日あたり2~3度使用する形となります。
子宮内膜症の治療法としては、他にダナゾールというテストステロン誘導体を使用する方法もあります。これは男性ホルモンに近い性質を持つ薬であり、摂取することで卵巣の機能および女性ホルモンの分泌を抑えるはたらきがあります。またダナゾールには、既に異所にて増殖した子宮内膜に直接はたらき、病巣を萎縮させる作用もあります。ただし、ダナゾールを摂取した場合も副作用が現れる可能性があります。
合わせて上記のような治療は患者さんを数ヵ月の間、月経が訪れない状況つまり妊娠できない状況にすることとなります。当ルームへと相談にいらっしゃる患者さんの場合、妊娠に関するお悩みをもつ方となるため、「(子宮内膜症の治療中、)妊娠ができない状況が続くのが本当に辛い」と話される方もいらっしゃいます。
腹腔鏡と子宮内膜症
子宮内膜症に対する外科的な治療方法として腹腔鏡を使用するものがあります。周囲の臓器と異所性子宮内膜とが癒着した場合、薬で治すことは難しくなります。そこで腹腔鏡にて腹部の中を観察し、剥離させるという方法が選択肢にあがってくるのです。
腹腔鏡では、卵管采(排卵時に卵巣から出た卵子をつかまえるはたらきを持つ器官)の形の異常等も治療することがが可能となります。