ARTでの妊娠率について~医療機関の格差~ - 東京の不妊治療

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コラム

ARTでの妊娠率について~医療機関の格差~

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2020年10月26日

ARTでの妊娠率について~医療機関の格差~

高度生殖医療の歴史

体外受精などのARTにおける妊娠率は、医療機関によって著しいばらつき、格差が認められますが、なぜこのような現実があるのでしょうか?

そのために少し高度生殖医療の歴史を振り返ってみたいと思います。

私は、高度生殖医療という革命的な変化を思うとき、どうしてもフランス革命とフランス料理との関係を連想してしまいます。1789年のフランス革命によってブルボン王朝が倒れ、共和制へ移行しました。共和制になって困ったことになった人達に、料理人がいます。今日我々がハレの日の料理としてイメージしているフランス料理は、もともと王侯貴族達をもてなすための料理でした。しかしフランス革命によって王制が倒れてしまうと、料理人達は職を失うことになってしまったのです。そこで彼らはどうしたかというと、料理を供する対象を王侯貴族から一般の人々へと変え、町中に次々とレストランを開いていきました。そして、こうしたフランス料理は一般の人々にも受け入れられ、国内はもとより、海を越えて世界中へと普及し今日の姿となったのです。

ARTの技術は医療機関の「企業秘密」

高度生殖医療は1980年代までは、大学病院などを中心とする医療設備や入院を要する病棟の医療でした。採卵などは、手術室において行われるというのが一般的でした。しかし、1990年代に入ると大学病院などで経験を積んだ医師達が、少しずつ独立し、自らのクリニックを開設していきました。このことが可能になったのは、1980年代後半から経腟超音波検査が大きな広がりを見せたからです。これによって体外受精のもっとも外科的なプロセスである採卵という行為が、これまでの手術室などから外来の処置室(採卵室など)で行うことができるようになりました。そして1990年代後半からは高度生殖医療機関の数は増加の一途をたどり、今日、日本産科婦人科学会に登録されている施設の数は600を数えます。さらにつけ加えたいのは、こうした増加分のほとんどがクリニック、いわゆる開業医が占めているという事実です。ARTの軸が大病院から個人の医療機関にシフトしたことによって、こうした医療技術のスキルやノウハウが、個人の医療機関側にファイルされることとなり、各々の施設が独自の工夫を加え、体外受精などを行っているというのが現実です。

これまでに体外受精のプロセスは、大まかに5つに分けて考えることができると述べました。そして、どのプロセスについても細部においては、医療機関の間で一致が見られません。

医療機関の実力の差は「ラボ力」の差

体外受精ははじめに述べた5つのプロセスのどの段階においても、不具合があっては妊娠が成立しません。そして妊娠を成立させるために大きな2つの力が働きます。ひとつは言うまでもなく医師が患者を正しく診断し、治療のスケジュールを組み立て、薬などを投与するといった医師側の力、すなわち治療力です。そしてもうひとつの力は普通の診療であれば、看護師達が中心となる、いわば看護力です。しかし、高度生殖医療においては、もう1つの大きな力は看護力よりも「ラボ力」です。

「ラボ力」のラボとは、培養室のことです。卵子を培養したり、精子を調整したり、顕微授精を行ったりする人達が活躍する「ラボ」の力が決定的に重要なのです。培養室で働いているのは、主にエンブリオロジストと呼ばれる人達です。エンブリオロジストとは日本語にあえて訳すならば、「胚培養師」と訳せると思うのですが、こうした人達の技術水準、スキルが体外受精の成否を決定づけていると言っても過言ではありません。農学部や獣医学部などで学問をした人達が多いのですが、彼らは卵子や精子を取り扱うプロフェッショナル集団なのです。体外受精の成績の優秀な施設ほど、こうしたエンブリオロジストには、優秀な人達がそろっています。ですから体外受精によって妊娠を成立させる力とは、医師達の治療力と、エンブリオロジスト達の「ラボ力」との総合力と言うことができます。

妊娠率への影響

こうしたラボに働くエンブリオロジスト達は、一般には表には出て来ませんので、なかなかその実力の評価は難しいと思います。彼らは培養器の精度管理なども入念に行うという仕事もしています。そして、培養器の中の安定度が、体外受精の結果に大きく影響するという指摘は多くあります。また、一般的な傾向として、体外受精はそれを行う件数が多い施設ほど妊娠率が高いという傾向もみられます。

その理由のひとつは先程述べたように培養器の安定性が高くなるからです。熱帯魚の水槽を例にとって考えてみるとわかり易いと思います。熱帯魚を飼う前にサーモスタットのスイッチを入れ、熱帯魚がいなくなったらスイッチを切る。また飼い始める時にスイッチを入れる、こうしたことを繰り返していたのでは、その水槽の中の生態系はなかなか安定したものにはなりません。実際の体外受精の培養では、二酸化炭素や、チッ素、酸素といった気体を一定の割合で培養器内に流すのですが、体外受精の件数が多い場合、そうした培養器は24時間ONの状態で稼働させています。件数が少ないとランニング・コストという問題から、なかなかこうした対応が困難となります。

ラボ力がすべてというわけではない

しかし体外受精の件数が多いことだけが、単純に妊娠率に反映されているわけではもちろんありません。先ほど示した症例のように、自然周期採卵の一個の卵子を体外受精させ、子宮に戻し、妊娠に至るというのは、極めて高い技術が必要です。胚培養に関して私にはとても驚いた経験があります。その方は結果的に顕微受精を行ったわけですが、最初に通常の体外受精でも受精しなかったので、翌日顕微受精を行ったということです。体外受精などを行う医師が多く知る事実として、培養器の中で一日経過した one day old の卵子は、たとえそのあとで顕微授精を行ったとしても、精子を受け付けないといわれており、妊娠は困難と考えられています。したがって、受精しなかった卵子は廃棄されてしまうことになります。しかしその女性においては、現実にそうした手技が行われ、妊娠に至ったという事実があります。それはその医療機関には、ほかにはないノウハウがあるのだろうと推測されます。こうしたラボの中のあまり表に出てこない微妙な技術は、ウエット・テクニークなどとよばれます。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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