不妊症治療における体外受精(IVF)の流れ・その4―受精および培養と、胚移植

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コラム

不妊症治療における体外受精(IVF)の流れ・その4―受精および培養と、胚移植

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2020年8月12日

媒精とは

 採卵および精子の調整が終了すると、いよいよ精子と卵子を引き合わせることになります。培養液の入った容器(シャーレ)の中で、卵子と精子を一緒にして培養することを媒精といいます。媒精の際には通常10万から20万程度の運動精子を用います。男性因子が認められない精液には、通常1億以上の精子が存在していますから、媒精に用いられる1~2%の運動精子は、選抜された精鋭集団ということができます。

 逆の言い方をすると、10万程度の運動精子が得られないような状態、すなわち乏精子症や精子無力症が高度であれば、最近ではすみやかに顕微授精に切り替える傾向になっています。最終的に受精する精子は1個なのですが、精子が卵子の周りを群をなして取り囲むことによって、精子の受精能が高まると考えられています。

 精子と卵子を一緒にしたシャーレは、インキュベーターという培養器の中に入れられます。インキュベーターは37℃という温度管理のみならず、酸素5%、二酸化炭素5%、窒素90%の割合にコンピューターで厳密に制御されるようになっています。これら3つの気体の混合比率は、卵管内の環境に近いと考えられています。通常、媒精から2時間ほどで卵子の中に精子が進入すると考えられていますが、18時間ほど経過すると、受精を顕微鏡下に確認することができます。正常に受精すると、卵子の細胞質内に、卵子由来と精子由来それぞれの、前核という小さな核が2つ認められます。培養から48〜72時間が経過すると、4〜8つに分割した胚となります。そして、その中の良好な胚を子宮の中に移植することになります。

分割卵について

 インキュベーターの中の卵子の受精が確認されると、さらに培養を進めます。順調に経過すれば、培養開始から約48時間後に4ないし8分割の分割卵を認めることができます。この分割卵(=胚)を子宮の中に移すことを胚移植と呼びます。

 しかし、分割卵であれば、すべて胚移植に適するというわけではありません。妊娠が成立するためには、その分割卵が良好なものであるかどうかが重要な要素となるのです。

 この分割卵がどの程度良好なのか(グレード)を形態学的に評価する指標として、Veeckの5段階分類が最も一般的に用いられています。この分類は分割した各々の細胞、これを割球といいますが、その形と、フラグメントと呼ばれる小さな細胞質の断片の割合を指標としています。

Veeck の 5 段階分類

Grade 1: 分割してできた細胞(割球)の形態が均等で、フラグメントを認めないもの

Grade 2: 割球の形態は均等であるが、わずかにフラグメントを認めるもの

Grade 3: 割球の形態が不均等なもの、フラグメントが存在してもわずかであるもの

Grade 4: 割球の形態は均等または不均等で、かなりのフラグメントを認めるもの

Grade 5: 割球をほとんど認めず、フラグメントが著しいもの

 通常、この分類で妊娠に適するのはグレード1もしくは2の卵といわれ、グレード4,5では妊娠がほとんど期待されないといわれています。

グレードの考え方

 私には大変興味深い経験があります。私のもとに不妊症治療の相談に来られ、その後体外受精を行うことになった方なのですが、移植の直後に当院にみえられました。その時、彼女は今回移植したという2つの分割卵の写真を私に見せました。そこには大変きれいな8分割卵が2個写し出されていました。

 私と彼女との間で以下のような会話が交わされました。

「大変きれいな卵ですね。両方ともグレード1でしょう。」

「いいえ。そうじゃないんです。1つはグレード1と言われましたが、もう1つの卵はグレード3と言われました。」

「なぜ、こちらの卵がグレード3と評価されたのですか?」

「先生がおっしゃるのには、グレード3と判定された卵の方は、もう一つに比べて4分割卵になるまでのスピードが遅かったそうです。それでグレード3と判定したということです。」

 Veeckの5段階分類は、割球の形と、卵の中のゴミでもあるフラグメントの量を指標としています。分割するスピードは無関係なのです。しかし、この巣認証治療機関ではより厳しい目で見て、グレード3と判定したわけです。不妊症治療に限ったことではありませんが、プロフェッショナルは一流になればなるほど、ものを見る目というものが研ぎすまされ厳しく評価するようになってきます。結果的にこの女性はこの体外受精で無事妊娠に至るのですが、実際に胎児として育ったのが、グレード1の卵なのかグレード3の卵なのかは、なんともいえないと思います。

胚移植後の流れ

 胚移植が終了すると、多くの場合、黄体ホルモン製剤の補充が行われます。通常の自然妊娠では、排卵した後の卵胞が黄体というものに変化し、そこから黄体ホルモンが多く分泌されるようになります。黄体ホルモンは体温を上昇させ、妊娠を継続するホルモンです。体外受精では、より妊娠の確率を上げるべく、身体の外からこのホルモンを補充するわけです。その方法としては、経口薬、注射薬、腟剤、あるいは貼付薬など、いろいろなルートで医療機関の判断で補充されます。

  不妊症治療として行えるのはここまでで、移植した受精卵が無事着床し妊娠に至るかどうかは、つまるところ胚と子宮内膜の相性ということになってしまうのかもしれません。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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