不妊症治療における体外受精(IVF)の流れ・その3―採精および精子の調整

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コラム

不妊症治療における体外受精(IVF)の流れ・その3―採精および精子の調整

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2020年8月12日

採精とは

 採卵と平行して行われるのが採精、すなわちパートナーがマスターベーション法によって精液を採取し、不妊症治療機関側に提供することです。この時、採精に際して「禁欲期間をどれほどとればいいのですか?」という疑問をもつ方もいると思います。私は禁欲期間にこだわる必要はあまりないと思います。むしろ、禁欲期間が長いと精巣内に長く存在していた古い精子の割合が多くなるので、禁欲期間をあまり長くとることはかえって精子の状態を悪くしてしまいます。

 禁欲期間を問題とされる方のために説明を加えますと、体外受精などを多く行っている医療機関では、最初の採精での精液検査での所見が思わしくないと、1時間後にもう一度採取を行ってもらう場合があります。この場合、後者では当然精子の数が減っていることが予想されるのですが、運動率の高い精子が得られることもまた事実なのです。そして体外受精に必要とされるのは、10〜20万程度の運動率の高い精子なのです。

妊娠における精子の役割

 通常の自然妊娠においては、腟内に放出された数千万から数億といった精子の間での激しいサバイバルレースが展開されます。卵管膨大部に待機する卵子までの平均約14㎝の距離を泳いで行かなくてはならないのです。このサバイバルレースで、1個の精子が最終的に受精するために、そのスタートラインには最低数千万の精子が必要と考えられています。それでWHOでは精子の数の基準値を1mlあたり2千万以上としています。

 不妊症治療における体外受精とは、自然妊娠の14㎝の距離を実質的に限りなく0に近づけてしまう行為と言えます。この場合に要求されるのは精子の数ではなく、少数でも運動性、直進性の高い精子(以下、運動精子)を選別して採集することが大切であり、このことが妊娠率を左右する大きな因子となります。運動精子を採集するという目的のためにとられる方法は、2つに大きく分けることができます。それは精子の比重によって選別するという方法と、精子本来が持つ自発的な運動能を利用するという方法です。それぞれについて簡単にポイントを説明します。

採精の2つの方法(パーコール法・スイムアップ法)

 まず、比重によって運動精子を採集する方法を「パーコール法」と言います。それはパーコールという液体を用いるからです。精子は成熟が進むに従って比重が増してくるという性質があります。また、精子が死んでしまうと細胞膜の透過性が変化し、水分が細胞内に浸透してくるため比重が低下してきます。パーコールという液体は、成熟した精子や運動精子と未熟な精子のちょうど中間の比重を持つような液体として調整されています。精液の中にパーコールを加えて遠心分離をすると、成熟した重い精子は下の方に沈んでいますので、これを回収して濃縮洗浄するのがパーコール法です。

 いっぽう、精子自身の運動能力による分離法として「スイムアップ法」を例に説明します。採取された精液が入った試験管にそっと培養液を加えます。その試験管を30分から1時間程度静置しておくと、運動精子は精液の中から抜け出して上方にある培養液の中に泳いで上昇してくるという性質があります。そしてこの培養液を回収し、その中に含まれている精子を洗浄、濃縮するのがスイムアップ法です。実際の体外受精の医療現場ではこうした2つの方法を併用したり、さらに医療機関によって独自の方法を加えたりで、精子の調整法も実際にはバリエーションが高くなっているのが現実です。

  最近になってパーコールには、精子に対して毒性があるという指摘もあり、日本産科婦人科学会では精子の調整にパーコールを使用しないようにと指導しています。しかし、スイムアップ法に比べ、パーコール法の方がより高い運動能を持った精子を得られるという報告もあります。率直に言うと、不妊症の問題が女性の側にあり、精液検査で男性因子が認められないのであれば、精子の調整そのものにそんなに大きな意味があるわけではありません。どの方法を用いても運動精子が回収できるからです。

採精における重要ポイント

 こうした精液調整がより重要となってくるのは、男性側に乏精子症や精子無力症がある場合です。病気の程度が重くなればなるほど、精子をどのように調整するかということが大切になってくるのです。最近では顕微授精という革命的な方法も日常的に用いられるようになってきたため、精子の状態が悪い場合、積極的に顕微授精が行われるという流れになっています。しかし、この場合も最終的には1個の精子を選別するわけですが、その母集団として運動能力の高い精子を数多く回収しておくということは大切なことです。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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