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コラム

【書籍試し読み】不妊治療の不都合な真実(2)

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2019年9月13日

不妊治療の不都合な真実

目次

    不妊ルーム院長が執筆いたしました書籍「不妊治療の不都合な真実」の内容の一部をご紹介いたします。

     

    第2章 「卵子の年齢」のウソにだまされるな

    ■体外受精は「ノアの方舟」か?「泥船」か?

    不妊に悩む多くの女性がいま、体外受精を「ノアの箱舟」と考え、最後の希望としてすがりつこうとしています。しかし体外受精の実情は、むしろ底なし沼へと引きずり込む「泥船」となってしまう場合も多いのです。

    不妊に悩む患者さんを強引に体外受精に誘導するクリニックが後を絶たず、患者さんとそうしたクリニックとの関係は、まるでグリム童話の「赤ずきんちゃん」と、それをたべてしまう「狼」の関係のようになっています。体外受精ではいま、モラルハザードといってもいい事態も進行しており、医療側にも改善が求められています。

    その背景のひとつとして、日本における出産年齢の高齢化が止まらないことがあります。

    平成25年(2013年)に行われた厚生労働省の「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」の報告書には「我が国においては、結婚年齢や妊娠・出産年齢が上昇しており、平成24 年には、平均初婚年齢が男性30.8 歳、女性29.2 歳となり、第1子出産時の女性の平均年齢が30.3 歳となっている」と書かれています。

    そのため不妊治療を受ける女性も高齢化が進んでおり、日本産科婦人科学会の集計によると、体外受精-胚移植を受ける人のうちで40歳以上の女性が占める割合は、2007年に31・2パーセントだったものが09年には34・4パーセントにまで上昇しています。実際、昨年(2015)年の一年間にこまえクリニックの「不妊ルーム」に相談に訪れた女性の平均年齢は、「41・9歳」でした。

    しかし不妊治療にかかわる者の間での一般的なコンセンサスとして、37歳を過ぎるあたりから妊娠の可能性は大きく落ちると言われています。40歳を過ぎるとその落ち込み方はさらに激しくなり、一歳ごとにさらに増していきます。これはいかんともしがたい、厳然とした事実です。

     

    ■体外受精は「失敗して当たり前」の世界

    不妊治療は一般的に、次の三段階のステップを踏んで進められます。

      第一段階:「タイミング法」
      第二段階:「人工授精」
      第三段階:「体外受精-胚移植」

    このうち「タイミング法」とは、女性の排卵周期にあわせて性行為を行うことで、妊娠の確率を上げる不妊治療のもっともベーシックな方法です。そして、どこで受けてもタイミング法の成績はほとんど変わりありません。

    第二段階の人工授精も外科的なプロセスは介入しません。人工授精とは、パートナーの男性から精液を受け取り、医療機関の側で洗浄したのちに濃度調整をして、その一部を女性の子宮の中に注入することです。しかし、人工授精による妊娠率はきわめて低く、5〜8パーセント程度でしかありません。 

    人工授精の際、女性は内診台の上に寝ているだけの状態ですから、そこにはまったく性的な興奮がありません。通常の自然妊娠では、セックスをするときの興奮が精子を卵管の中へ呼び込みます。人工授精にはそうした要素がまったくありませんから、妊娠率が低いのは当然です。

    これは日本だけの話ではなく、世界中で人工授精が極端にいいという国は一ヵ所もありません。そこで不妊に悩む女性たちは、人工授精をなかば通過儀礼として、きわめて医療費が高額な体外受精へと導かれていくのです。

    いまはIVFやARTといった言葉を冠したクリニックが各地に乱立し、どのホームページをみても、体外受精を受ければすぐにでも子どもを授かることができるような幻想におちいります。しかし、ホームページをみただけでクリニックの実力や体外受精の妊娠率について正確な情報を得ることは不可能です。

    こうしたクリニックがホームベージに載せている体外受精の「妊娠率」は、その分子と分母が何を指しているのかが、明確にされていません。

    体外受精の手順は、多くの場合、まず女性の卵巣を刺激して卵の数を増やす排卵誘発から始まります。そして、採卵をおこない、採った卵子を培養し、ドロップアウトせずに残ったよい卵子を、子宮に胚移植するわけです。体外受精の妊娠率を算出するにあたり、分母の起点を採卵した施術数をとるのか、それとも胚移植とするのかで、そもそも大きな違いが生じてしまいます。

    当然、後者を分母としたほうが、妊娠率は高まります。日本産科婦人科学会では「採卵あたり」を分母とするように指導していますが、それがまったく守られていないのが現状です。

     

    ■体外受精の「妊娠率」はつねにあいまい

    妊娠率の「分子」に相当する、妊娠判定をどこで行うかもクリニックによってまちまちです。誠実な産婦人科医であれば、赤ちゃんが入っている胎嚢という袋があることを超音波検査で確認してから、はじめて「妊娠した」とみなします。もし「胎嚢が確認されたこと」をゴールとした場合、現在の体外受精の妊娠率はせいぜい22〜23パーセントしかありません。

    さらに良心的な産婦人科医であれば、赤ちゃんがもう少し大きくなって心臓の拍動が確認されてから、はじめて「妊娠した」と判断します。ところがART医療機関のなかには、尿検査で陽性反応が出ただけで「妊娠」とみなすところも多いのです。このように妊娠判定自体が病院によってバラバラなので、どの数字を「分子」にとっているのかによって、クリニックがホームページなどで主張する「妊娠率」の意味合いは大きく違ってきます。

    体外受精を希望する人には、多くのクリニックで説明会が行われますが、この数字はそこでもきわめて曖昧にされています。なかには妊娠率を「40パーセント」などと説明するクリニックもあり、自分たちのクリニックで体外受精を受ければ、すぐに妊娠できてしまうような印象を与えます。「不妊カルト」という言葉がありますが、まさに一種の宗教団体の勧誘のようになっているのです。

    ある賢明な患者さんが「40パーセントの分子と分母を教えてください」と質問をしたところ、説明役の医師は「いまは手元に資料がない」といって、答えられなかったそうです。

    では、体外受精の現実的な妊娠率はどのくらいでしょう。

    卵子を戻したところをスタートライン、子どもが生まれたところをゴールとした場合は「生産率」という言葉で表現されます。そして日本産科婦人科学会によると、体外受精における移植周期あたりの生産率は、平均で16.1パーセントでしかありません。

    せっかく卵子を戻しても、それが赤ちゃんとして生まれてくる確率は七分の一、つまり体外受精は七回のうち六回は失敗するのです。これほど妊娠率の低い医療行為が、「ノアの方舟」のような最後の希望の手段として期待されている現状があります。そして、次の章でくわしく述べるように、無秩序な公的助成の対象になることは、おかしいと言わざるを得ません。

     

     

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    ≪院長プロフィール≫
    こまえクリニック院長 放生 勲

    昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

    都内の病院にて2年間の内科研修

    フライブルク大学病院および
    マックス=プランク免疫学研究所留学

    東京大学大学院医学博士課程修了
    (東京大学医学博士)

    平成11年5月こまえクリニック開院


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