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コラム

【書籍試し読み】不妊治療の不都合な真実(1)

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2019年9月12日

不妊治療の不都合な真実

目次

    不妊ルームの院長が執筆いたしました書籍「不妊治療の不都合な真実」の内容の一部をご紹介いたします。

     

    はじめに

    本書は体外受精という、少々難しいテーマを取り上げます。

    ところで、私は産婦人科医でも体外受精の専門家でもありません。医師ではありますが、専門は内科で、東京・狛江市で「こまえクリニック」という医院を経営しています。

    私はこのクリニックの一角で、2000年から内科的な見地から不妊にかんする相談にのる「不妊ルーム」の活動をはじめ、16年間に8200人以上の不妊に悩む女性の相談を受けてきました。翌年からは不妊治療のフォローアップを開始し、1,900人以上の方が妊娠に至りました。フォローアップとはいわば「内診台のない不妊治療」のことで、不妊に悩む患者さんへのセカンドオピニオンの提供と、漢方薬やクロミッドなどの経口排卵剤の処方による治療を行っています。

    この16年間に不妊・妊娠にかんする著作を十数冊出版し、その都度、大きな反響をいただきました。それらの経験からも、多くの方がいま不妊に悩んでいることを痛感しています。

    その私があらためて筆をとったのは、日本の不妊治療の世界が大きく変わりつつあるからです。

    変化をもたらした一つの要因は、体外受精(IVF; In Vitro Fertilization)という新しい技術の登場であり、いわば「光」の部分です。体外受精は、胚移植(ET; embryo transfer)と組み合わせて「IVF-ET」と呼ばれたり、生殖補助医療技術(ART; Assisted Reproductive Technology)と呼ばれることもあり、不妊治療において大きなブレイクスルーとなった技術です。

    しかしその反面、日本の不妊治療には深い「影」の部分があります。その影をもたらしている要因の一つは、体外受精に対して投じられている膨大な公的助成金です。

    体外受精という技術には大きな可能性があり、私自身、肯定的な考え方をもっています。また日本の体外受精の技術は高く、世界的にもトップレベルにあります。しかし、そこには大きな歪みもあり、出産を望む女性たちを苦しめる結果になっています。

    本書の目的は、この「光」と「影」をともに指摘し、一人でも多くの女性が幸せに子どもを生み、育てられる社会をつくることです。

     

    第1章 体外受精とはなにか

    ■妊娠のメカニズムと不妊治療

    体外受精について理解するには、まず、妊娠にいたるメカニズムを正しく理解しておく必要があります。結婚し、妊娠・出産、そして子育てを実際に経験した人でも、妊娠のメカニズムをきちんと理解している人は本当に少ないのです。

    そこで、やや煩雑ですが、まず妊娠のメカニズムについて説明します。

    性交によって、膣内に1〜3億個の精子が放出されます。放出された精子は、いっせいに子宮をめざして泳ぎだします(そのスピードは1分間に2〜3ミリメートルといわれています)。このとき子宮から頚管粘液という助け船がでて精子を迎え入れやすくします。

    しかし、精子の99パーセントは膣内で死んでしまいます。膣内が酸性であるために、たんぱく質を主成分とする精子はほとんど生き残れないのです。

    子宮は、その断面をみればわかるようにスポイトのような形状をしています。膣から子宮内への精子の移動は、「スポイト現象」による瞬間的な出来事です。膣内に射精された1〜3億個精子のうち、子宮の中へと移動できるのは通常1パーセント以下です。

    せっかく子宮内にたどりついても、こんどは白血球がまちかまえています。白血球は精子をよそものと認識するので、ほとんどの精子はこの段階で白血球に殺されてしまうため、この段階まで残るのは1万個程度です。

    いっぽう女性の側では、一回の生理周期に両側の卵巣内で複数の卵胞が排卵に向けて発育していきます。脳の下垂体からは排卵をうながすLH(黄体形成ホルモン)が多量に分泌され(これをLHサージといいます)、その刺激によって卵胞が破れ、1個の卵子が飛び出します。これが「排卵」です。

    (~中略~)

    受精すると卵子の表面に化学変化が起こり、ほかの精子は受けつけなくなります。受精が成立すると、受精卵は卵割という細胞分裂をはじめ、同時に卵管内を子宮に向かって移動しはじめます。そして3〜4日かけて安住の地である子宮に降りていくのです。

    そのあいだに子宮も、精子を受け入れるため着床の準備をはじめます。卵胞ホルモンと黄体ホルモンが継続的に分泌され、子宮内膜は厚さが10〜14ミリにまでになり、体温も上がります。この子宮内膜に受精卵がもぐりこむのが「着床」です。ここでようやく妊娠が成立したことになります。

    ここまでの妊娠に至るプロセスの、どこかひとつにでも異常があれば、妊娠は成立しません。この部分を扱う生殖医療が不妊治療とよばれるものです。そして体外受精は、不妊治療におけるイノベーションとして期待されているのです。

      
     
    ■「体外受精」を生み出した二人の男

    いまや世界的に広く普及している体外受精ですが、その研究の発端は1960年代の初めにまでさかのぼります。

    体外受精の研究は、英国の天才的生物学者、ロバート・エドワーズによって、実質的に始められました。エドワーズは、卵子を体外で成熟させることに強い関心を持っていました。彼以外にも、卵子を体外で成熟させるという試みは、いろいろな学者によって行われていたがうまくいきませんでした。

    そこでエドワーズは、「体外で卵子を成熟させる」のではなく、「体内で成熟した卵子を取り出し、体外受精させる」という方針に切り替えたのです。この発想の転換がなければ、体外受精児の誕生はなかったかもしれません。

    彼はウサギによる体外受精の実験を繰り返し行い、1960年代の終わりには、ウサギでの体外受精のシステムを完成させていました。そして人への体外受精の研究に切り替え、これをどのように臨床応用するか、そのシステムの確立に努力したのです。

    エドワーズは手術での摘出卵巣からの卵子を使った実験で、シャーレの中でヒトの卵子と精子を受精させ、培養し、分割卵として生存させることに成功しました。これで技術的には、体外受精で得られた人の受精卵を、子宮に戻せば赤ちゃんへと成長させることも可能となったのです。

    しかし同時に大きな壁が立ちはだかっていました。

    なぜならこれを不妊治療として応用するためには、人の卵子を排卵する直前というタイミングで卵巣から体の外に取り出し、体外受精させなければならないからです。

    この難問を解決したのは、”1本の電話”でした。

    エドワーズがこのときに電話をかけた相手は、パトリック・ステプトーという婦人科医でした。ステプトーは当時まだ新しい医療技術だった腹腔鏡(Laparoscopy)の名手として名が通っていました。

    腹腔鏡とは、お腹に三カ所の穴を開け、一方からカメラを入れて中を覗き、もう一方から医療器具を入れて操作し、さらにもう一つの穴からは二酸化炭素を入れてお腹を膨らませて視野を拡大させるという外科手術の方法です。

    エドワーズの要請を受けたステプトーは、この方法で体外受精を実行することになりました。そのときに患者として選ばれたのが、両側の卵管閉塞が確認されていたレズリー・ブラウンという当時29歳の女性でした。

    ステプトーは見事にレズリー・ブラウンの卵巣から、排卵直前の成熟卵を取り出して見せることに成功しました。彼女の卵子は直ちに体外受精され、分割卵として確認された後、彼女の子宮の中へと移植されたのです。

     

     

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    ≪院長プロフィール≫
    こまえクリニック院長 放生 勲

    昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

    都内の病院にて2年間の内科研修

    フライブルク大学病院および
    マックス=プランク免疫学研究所留学

    東京大学大学院医学博士課程修了
    (東京大学医学博士)

    平成11年5月こまえクリニック開院


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